長野でそばを食べる前に「信州そば」ってどんなそば?

信州そばのルーツ


高冷地に合う穀物として、昔からそばの栽培が行われてきた長野県。その始まりは、奈良時代まで遡ります。山岳修験道の修行僧の携帯食として蕎麦の実が持ち込まれ、麓の山村などで栽培方法が広まったことが、「信州そば」の始まりと言われています。
最初は、粉を捏ねて固めたものを茹でた「そばがき」で食べられていましたが、江戸時代の初め頃からハレの日のもてなしとして「そば切り(細く切られた現在の蕎麦の麺)」が登場。親戚縁者に振舞われる風習が生まれました。
平安時代から霊山として知られる戸隠山では、宝永6年(1709)の「奥院燈明役勤方覚帳」に祭礼の度に「蕎麦切」として振舞われたという記録が残っています。
そばの呼び方あれこれ。


長野でそばを食べようとすると、お店の看板やメニューによく登場するのが「十割そば」「二八そば」など漢数字が表記されたそば。
この数字は、麺の中のそば粉の割合を示します。「十割」ならそば粉が100%、「二八」はそば粉とつなぎの小麦粉が8:2、「九一」は9:1です。
そば粉の割合が多いと、当然そばの風味を強く味わえますが、ザラザラ感も残ります。つるつるとした喉越しの良さを楽しみたい方は「二八そば」がおすすめです。
その他、蕎麦殻を挽き込んだ黒っぽい「田舎蕎麦」、そばの実の中心部から出る一番粉だけを使った白い「更科蕎麦」など、お店によって使われているそばの麺の種類も様々。ぜひ食べ比べて、お気に入りのそばを見つけてみてください。
ご当地そばあれこれ。


そばの違いは、そば粉の分量だけではありません。南北に長い長野県では、そばの品種から製法・盛り付け方・食べ方まで、地域によって様々な個性があります。
スペースの都合で全部を取り上げることはできませんが、各地の特徴的なそばを一部紹介します!
木曽路:とうじそば


松本から飛騨へと続く野麦街道沿いの山間地・奈川(ながわ)の郷土料理が「とうじそば」。稲作ができない山間地の主食として昔から食べられていたそばを、寒い時期にも美味しく食べようと考えられ、生まれた食べ方です。
「とうじ」の語源は、そばをつゆに浸ける「湯じ」と言われていますが、奈川では投げる汁と書いて「投汁(とうじ)」と読みます。鉄鍋のつゆに山菜やきのこ、季節の青菜、鶏肉等を入れ、火にかけて温めます。小割に盛られたそばを竹で編んだ投汁カゴに取り、ほど良く温めた鉄鍋のつゆにつけ、軽くゆがき、つゆや具と共にお椀に移していただきます。
ハレの日の振る舞いや、旅人へのもてなしとして、次第に周辺地域にも広がったとうじそば。つゆの旨みと温められたそばの香りが食欲をそそります。
奈川では厳しい自然環境でもたくましく育つ奈川在来種の栽培が行われています。年に5回も行われているそば祭りでは、この貴重な在来種のほか、季節ごとに異なるそばの魅力を楽しむことができます。
撮影協力:そばの里奈川
伊那路:高遠そば(行者そば)


伊那市には、「信州そば発祥の地」と呼ばれる地域があります。奈良時代の初め、山岳修行のため西駒ヶ岳の麓の荒井区内の萱に入った修験道の開祖・役小角によりそばの実とその栽培技術が広められ、以降、そば文化はこの地から周辺地域へ広まった言われています。
伊那地域に伝わるのは、「行者そば」。大根おろしの汁と焼き味噌をつけていただくもの。江戸時代に高遠の殿様の大好物として評判になり、人々の求めに応じ切れなくなったため「西駒登山を修める者以外行者そばを食べることはできない」として秘伝の味になったそうです。
現在では「行者そば」はもちろん、麺つゆに辛み大根と焼き味噌を混ぜた辛つゆで食べる「高遠そば(=写真)」も復活し、伊那名物として人気です。
写真提供:伊那市観光協会
北信濃:戸隠そば


日本三大そばのひとつとして、全国的にも有名な「戸隠そば」。
戸隠信仰の歴史と深く関わりを持ちながら発展した戸隠そばの技は、地域の人々の間で受け継がれ、現在、地区内には20軒以上のそば店があり、民宿や旅館でも食べることができます。標高1000m以上の狭いエリアにこれだけのそば屋が集中している地域は全国的にも稀です。
日中と朝晩の気温差が大きい戸隠高原のそばは、霧の下で成長するため「霧下そば」とも呼ばれます。戸隠そばの特徴は、風味がよく、高原の冷たい水で締められるため、つるりと喉越しがよいことです。
そして、特筆すべきは、その盛り付け方。戸隠の伝統工芸「根曲り竹細工」のそばざるに、「ぼっち盛り」と呼ばれる小分けにして盛られます。通常は5ぼっち、大盛りは7ぼっち、半ざるは3ぼっちになります。
また、盛り付けの際は、特に水切りをせず、直接竹細工のざるに盛られます。こうすることで、戸隠の冷たくておいしい水と一緒にそばを味わえるのです。
奥信濃:ぼくちそば


つなぎにオヤマボクチの葉の繊維(=写真)だけを使った奥信濃の山村に伝わるそば。飯山市の「富倉そば」や、下高井郡山ノ内町の「須賀川そば」が有名です。この地域に自生するオヤマボクチ(雄山火口)を採取し、葉の太い葉脈を抜き、手で揉んでは干しを繰り返して、残ったわずかな繊維だけを取り出します。そして、灰汁抜きをして乾燥させたひとつまみをそばのつなぎとして使います。
雪深い奥信濃では二毛作ができないので、麦の栽培ができず、小麦粉が手に入らなかったことから、オヤマボクチを使う知恵が生まれました。とはいえ、オヤマボクチの使用量は、そば粉1kgに対してわずか3g。捏ねるのには小麦つなぎのそばの倍以上の時間がかかりますが、よく捏ねられたぼくちそばは切れにくく、畳が透けて見えるほど薄く打つことができるそうです。
こうして、大変な手間と時間がかけられたぼくちそばは「幻のそば」と呼ばれるほど。十割そばの香りと、ツルツルとした喉ごし、シコシコとした独特の歯ざわりが特徴です。
そば打ち体験施設も充実!


そば大国・長野県にはそば打ち体験ができる施設や店舗もたくさんあります。
食べるだけでなく、そばの捏ね、打ち、切りなどを体験することで、そば打ちの技術を知るだけでなく、地元の人との交流もでき、さらに思い出深い旅になるでしょう。多くの施設では、自分で打ったそばを、その場で食べることができます。
さわやか信州旅ネットの下記のページからエリア別に検索することができますので、旅行の計画に合わせて探してみてください。